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続々と、クルマが走ってくる。

地を這うようなAudi R8から、いまにも横転しそうな背高ノッポのバンまでよりどりみどり。

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おなじみ日本の走り屋系グルマもけっこう多い。
インプレッサにランエボ、それにインテグラ Type Rなどなど・・・。
もちろん、運転しているのは日本人ではないが。

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今日が一般開放dayなのはほとんど間違いない。
というわけで、急遽、ゲートのほうへ向かってみることにした。

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やはり、きのうと違って大賑わいである。
駐車場にはクルマがわんさか駐まっている。

おぉ、ランボくん!

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うぎゃ、こっちにはF430・・・。す、ご、い!

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ものすごいお値段のクルマがウヨウヨ。
ボディの汚れなんぞ、まったく気にもかけない様子で次々にゲートをくぐっては路面に獰猛な排気音を叩きつけていく・・・。シビレル・・・。

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さっきのコーナーで見かけたAudi R8だ。
ここのゲートは、最終ストレートのちょうどまんなかあたりにあって、一周終えるたびに一度止まってゲートを通過しなければならないしくみになっているのだ。

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ありゃりゃ・・・。事故車・・・。

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ゲートはこんな感じ。
奥に立っている電光掲示板が、アクシデントが起きている場所を点滅させている。
やっぱり、事故、多いんだ・・・。

こうやってしばらくゲートで見物しながらずっと考えていたことは・・・、当然、自分で走ってみるかどうか、ということである。

そりゃぁ、やっぱり自分で走ってみるべきでしょ!せっかく来たんだし!

いや、でもなぁ、クルマでサーキットなんか走ったことないし、あんなフェラーリだの911だのR8だのがウジャウジャ走っているところなんて、怖くて走れたもんじゃないしな・・・。
タイヤもまだスタッドレスだし・・・。
だいいち、みんなのジャマだぜ。それこそ「動くシケイン」だ。迷惑。やめとけ。

いやいや、何言ってんだよ、ここまで来ておいて、ただこうやってずぅ~っとボケ~っと見てんのかよ。バカか。走りたくても走れない人たちだってたっくさんいるんだぞ。
「据え膳食わぬはオトコの恥」、っていうではないか!

アホ、それはイミが違う。
だってほれ、たったいまもベコベコになったBMWが運ばれてきたではないか!
オマエのヘタクソな運転じゃあ、あれみたいにグシャグシャになってトラックに載せられて戻ってくるのが関の山だぞ。そしたらどうすんだ?帰れなくなるぞ。
生きてたらまだいいよ。おまえ、下手したら死ぬぞ・・・。
泣く子も黙るNordschreifeだぞ。GT4で何回死んだんだ?

だって、今日のためにそうやってGT4でこれまでいっしょうけんめいコースを覚えてきたんじゃないか!
だいじょぶだって。ほれ、走っちゃえ!ゆっくり走ればだいじょうぶだって。

うぅぅぅぅぅ・・・、どおぉぉしよおぉぉぉか・・・・。

とりあえず、昼めしを食べながら迷うことにした(笑)。

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近くのガソリンスタンドでサンドイッチとジュースを買い、ギャラリースポットにクルマを駐める。
きのうと違って、たくさん見物客が集まっている。

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ひゃぁ、やっぱり911は速い!怪音を響かせながら猛然とコーナーを駆け抜けていく。
コース内での追い越しは、通常の道路と同様、左側からと決まっている。トロいクルマは右に寄るのがルール。

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おー、バイクも走ってる!
晴れてはいるものの、気温はまだマイナスなのに・・・。

そうだよ、あぁやってバイクだって寒い中がんばって走ってるんだから、やっぱり走ってみるべきだよ!フツーの観光客のクルマだって、けっこう楽しそうに走ってるし。

おし!いっちょやってやるか!

と思った瞬間・・・、

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事故ったクルマがトラックに載せられ、無惨な姿をさらして通ってゆく・・・。
あぁぁ、やっぱり怖い・・・。

いや、ほんとに、悩ましい。
肝っ玉が小さいといわれようがなんだろうが、実物のコースを目のまえにすると、ほんとうに怖いのだよ。
こんなとき、大勢だったら「ノリ」であっさり「おし!行こうぜぇ!」となるのは明白だが、なにしろひとりぽっちなので、やっぱり迷っちゃうのだよねぇ。

コースの中が、まったく別世界のように見えるのだ。
入ったら二度と戻れない、「緑の地獄」。
いや、まだ「緑の地獄」というより「灰色の地獄」だが・・・。

なぁんて、ずっと迷ってても仕方ないし、サンドイッチもとっくに食べ終わってしまったので、決心して再びゲートへ向かう。
やっぱり、走ってみることにした。(そりゃ、そうだよね・・・。)

ゲート前にあるチケット売り場で、"Ticket for 4 laps , please !"

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あ~ぁ、とうとう買っちゃった。
4周券、70ユーロなり。

走行券をしげしげと眺めながら、駐車場でいっぷく。
荷物を動かないように固定し、シートを合わせなおし、いざ、ゲートへ!

走行券を機械に入れると、あっさりゲートは開いた。
緊張も興奮も最高潮、さぁ、スタートだ!

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一周めは、とにかくゆっくりゆっくり、と心に言い聞かせる。
自分の次に出発したクルマが、さっそく全開加速であっさり自分を抜いていった。

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長く続くストレートの終わり、"Tiergarten"。
「長く続くストレート」といっても、スタート地点がストレート区間の終盤なので、ストレートはまだほとんど走ってない。

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最終コーナー。正面にF1コースと泊まっているホテルが見える。
ここを右に直角に曲がると、GT4ではスタート地点。

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2km地点、Hatzenbachに向かう下り坂。
やっぱり想像以上に勾配がすごい。GT4での印象とずいぶん違う気がする。

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7km地点。
もう、なりふり構わず、それはそれはゆっくりとしたペースで走る。
もうすでに何台に抜かれたことか・・・。

ミラーにクルマが映った瞬間、さっと右に寄り、ときにはウインカーまで点けて、
「もう、どうぞどうぞお先にどうぞ。わたしはけっしてアヤシイものではございません。アナタさまに逆らおうとか勝負しようとか、そういった大それた考えは微塵もございません。さぁ、左側どぉーんと空けますから、どうぞ思う存分ぶち抜いてってくださいな!」

と、謙虚そのものの態度で走る。

最初は、ひとつひとつ写真を撮りながら走ろうと思っていたのだが、やっぱり危なっかしいので、これ以降、写真は撮ってない。

さすがにさんざんGT4で走りこんだだけあって、各コーナー、バッチリ覚えている。
やっぱり、練習しておいてよかった・・・。これ、初めてだったら絶対にわからない。

ただし、GT4でのコーナリングスピードやブレーキングポイントは、まったく参考にならない。
そりゃ、あたりまえだ。

コーナーが近づくたび、「あー、ここはこのへんでブレーキングして、あそこらへんでステアリングきって、○○km/hくらいで曲がるんだっけ」などと考えるのだが、なにしろ、悲しいかな、それとは比較にならない遅さで走っているのだ。

道幅はちょっと広めの峠道、というくらいの狭さだし、ブラインドカーブだらけで先がまったく見えない。
さらに、(何度も書くようだが)すさまじいまでの勾配のおかげで、先の見えなさに拍車がかかっている。

本当に、すごいコースだ。

僕のようにチンタラのらりくらりおっかなびっくり走ってても恐ろしいのに、どうしてあんなスピードで走れるのだろうか。まったく、信じられない・・・。

あるブラインドコーナーを曲がると、イエローフラッグを振っているおっちゃんが目に入った。とっさに減速。
コースわきに、グシャグシャになったクルマが煙を出していた。
あぁオソロシヤ・・・。

朝、路面にタッチしたコーナーでは、たくさんのギャラリーが手を振っている。
もちろん、自分にではない。
さっきまでは、あそこで見てたんだよなぁ・・・。

派手にコーナリングを決めていったヤツには喝采を浴びせ、スピンしてしまったりヘマをやるととたんにブーイングの嵐。

自分はさぞかしチンタラへっぽこに見えていたハズだ・・・
恥ずかしい・・・、などと自意識過剰になっているヒマはない。目のまえにはカベのようにそそり立つ急勾配の"Exmuhle"が迫る。

超有名なコンクリートバンク、"Karussell"。
バンクに入る勇気がなく、外側をゆっくり抜ける。
911 GT3が、キレイにバンクをなぞって内側から抜いていった。

"Hohe Acht"からしばらく続く連続カーブ区間も恐ろしかった。
勾配はますますきつく感じられ、登ったと思ったら信じられない勾配でストンと落ちる。
もちろん、先はまったく見えない。

ひいこら言いながら、やっとストレートへ!

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20km地点。右手にはるかニュルブルク城が見える。

ほんと、ここくらいだ、安心してアクセルを全開にできたのは・・・。

ストレート終盤で、ゲートがある出発地点へ強制誘導され、一周終了!
ふぅ・・・、生きて帰ってこれてよかった・・・。

駐車場でいっぷくし、すかさず二周め。
今度は、少しリラックスし、気持ちも落ち着き、ペースも少しだけ上げる。
やっぱり怖いことに変わりはないが、すこしだけ楽しさも感じる余裕もできた。
でも、また別の場所で事故が起きててゾっとする。
そんなこんなで、二周めも無事に生還。

・・・いやぁ、ホントに走っちゃった。

なんだか、言いようのない満足感。
手に入れた走行券はまだ2周ぶん残っているけど、今日はもう満足。
あと2周は、次回のお楽しみにとっておこう。今年いっぱい有効だし。

「走った」なんていうより「歩いた」といったほうがいいようなペースだったものの、自分で走ったことに変わりはない。
おおげさなようだが、「世界の舞台」に立ったような、そんな気分だった。

やっぱり、来てよかった。走ってよかった!

急に力が抜けてしまったので、ここでいったんホテルに戻ってひとやすみ。

(つづく)